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コラム



千曲川の植物の変化 〔桜井善雄〕

千曲川の植物の世界は、最近数十年の間に劇的といえるほど大きく変化した。その著しい特徴は、昔はほとんど見られなかった帰化植物が、種類においても生育する面積においても、非常に増えたことである。

中でも、毎年まっ先に目をひくのは、5月の初め頃に川原一面にひろがるハルザキヤマガラシの鮮やかな黄色の花筵(かえん)で、これは昔とちがった最近の千曲川の早春の風景になっている。

また、昔は川原や堤防あるいは川沿いの田んぼの畦(あぜ)などにかなりまとまった群落があり、初夏の夕方になると直径数センチもある黄色の花を開いて「宵待草」の風情を楽しませてくれたオオマツヨイグサ(これも帰化植物)は、ハルザキヤマガラシとは逆に近年になって急に減少した。現在この植物は野草の愛好家が栽培しているほか、野外ではほとんど姿を消し、代わって花が小さくあまり風情のないアレチマツヨイグサが分布を拡大した。この植物は風情こそないが、花の後にたくさんつける朔果の中に沢山の種子をもっていて、秋の終わりから初冬にかけて、小鳥たちの貴重な餌になっている。

カワラサイコ、カワラヨモギ、カワラケツメイ、メドハギなど、昔はふつうに見られた川原の特徴的な植物は、流域でおこなわれた土木工事で裸地の緑化などに使われてその種子が流れてきたオニウシノケグサやシナダレスズメガヤなどに生育場所を奪われて激減し、さらにそれらに混じってビロードモウズイカの黄色の花、ムシトリナデシコのピンクの花、ヒメジョオンの白い花などが、夏の川原を彩っている。

またオギやススキの立場をおびやかすオオブタクサやセイタカアワダチソウの進出も見逃せない。さらに注目されるのは、ヨシやヤナギの群落におおいかぶさって時にはこれを枯らしてしまうアレチウリの進出である。この困った植物は十数年前から千曲川の川原に侵入し、現在も各地でその生育地を拡大している。

昔の千曲川の川原の木本植物はヤナギに代表された。種類はタチヤナギが最も多く、カワヤナギがこれに次ぎ、オノエヤナギ、ネコヤナギ、コゴメヤナギなども少しは混じっていた。ヤナギの仲間は春(4月下旬〜5月上旬)綿毛のついた種子(柳絮=リュウジョと呼ばれる)を飛散させて水面に浮かび、水辺の湿った土に流れ着くと直ぐに発芽するので、水際に密生した群落をつくることが多い。またかつて水際があった中州や寄州の川原の中にも林をつくって、千曲川の河川敷の緑の景観の主役となり、一部の林にはコサギやギイサギなどが集団営巣していた。

しかしこの20年くらいの間にヤナギの林はめっきり減って、帰化木本植物であるハリエンジュ(ニセアカシヤ)の林に変わってしまった。ハリエンジュは明治時代に外国から入り、成長が早いので山地の砂防工事などに各地で使われた植物である。しかもたくさんの種子をつけるので、それが水に流されて急速に下流まで広がったものと思われる。ハリエンジュはマメ科の植物なので、根粒菌をもち、やせた土地でもよく成長し、また横に伸びる根からさかんに芽を出すことも、群落の拡大をたすけている。

ハリエンジュは5月の中下旬ころ純白の花房をいっぱいつけて、川原に甘い香りをただよわせ、養蜂家にとってはよい蜜源植物になる。またその材は堅く、炭に焼けば良質の堅炭ができるというが、燃料事情が大きく変わり石油系の燃料が主流となった現在では利用する人もすくなく、いたずらに成長し生育地を拡大するばかりである。

上に名前をあげた以外にも、千曲川には沢山の種類の帰化植物が生育している。昔と最近の千曲川の主な植物の種類を対比すると、表のようになる。表の中の斜体で書かれた植物は、すべて帰化植物である。

千曲川の植物の主な種類 〔昔と現在の比較〕
生育場所 過去(明治年間〜昭和の中期) 現在
川原 カワラヨモギ タチヤナギ オニウシノケグサ アレチウリ
カワラサイコ カワヤナギ シナダレスズメガヤ オオオナモミ
カワラマツバ ネコヤナギ ネズミムギ ヒメジョオン
カワラナデシコ オノエヤナギ ハルザキヤマガラシ ハリエンジュ
メドハギ イヌコリヤナギ シロバナシナガワハギ イタチハギ
コマツナギ ヤマハンノキ アレチマツヨイグサ サボンソウ
ツルヨシ オニグルミ ヒゲナガスズメノチャヒキ ニワウルシ
オギ ノイバラ ムシトリナデシコ ヤナギ類
チガヤ ヤマブキ ビロウドモウズイカ ネムノキ
ススキ ネムノキ オオブタクサ クズ
水辺、タマリ、ワンド ヨシ オオイヌタデ クサヨシ ガマ
マコモ ヤナギタデ アメリカセンダングサ ヒメガマ
ガマ ミクリ センダングサ マコモ
ヒメガマ ツルヨシ ミゾソバ ヨシ
ミゾソバ ケイヌビエ ケイヌビエ  

 

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